古式ゆかしく
自然そのものを舞台として
演ぜられる能楽をご堪能ください
令和4年度 奈良金春会演能会
能「敦盛」(あつもり)
源氏の武将、熊谷次郎直実は出家して蓮生(ワキ)と名乗り、自らが手にかけた平敦盛を弔うために須磨浦一の谷を訪れる。そこへ草刈り男たち(前シテ・ツレ)が笛を吹きながら現れ、蓮生と言葉を交わす。やがて草刈り男たちは去ってしまうが、一人だけ居残った男が、自分は敦盛であるとほのめかし消え失せる。須磨浦の者(アイ)が現れ、敦盛の最期を語り立ち去る。蓮生が供養すると、敦盛の亡霊(後シテ)が出現。敦盛は平家一門の流転の運命を語り舞い、直実に討たれた様を見せ、さらなる弔いを願う。
青葉などの笛についての謡や敦盛の舞う「中ノ舞」など、風雅な要素のある修羅能。世阿弥作。
能「遊行柳」(ゆぎょうやなぎ)
諸国を廻る遊行上人(ワキ)が供の僧(ワキツレ)とともに奥州白河の関を通りかかり、老人(前シテ)に呼び止められる。老人は古い街道を教えようと言い、古塚の上の「朽ち木の柳」に案内する。さらに昔、西行法師がこの柳の陰で「道のべに清水流るる柳蔭、しばしとてこそ立ちどまりつれ」の歌を詠んだことを語り、塚のほとりに姿を隠す。所の者男(アイ)から話を聞いた上人が念仏を唱えていると、白髪の柳の精(後シテ)が現れる。柳の精は柳にまつわる和漢の故事を語り、舞を舞い消え失せる。
柳の精は上人の念仏に感謝をし、「序ノ舞」を静かにゆったりと舞います。観世信光による閑寂な趣の作品。
解説 中司 由起子
次回予告
11月27日(日) 能「金札」髙橋 忍 能「紅葉狩」金春 飛翔
ならでは能
清経 恋之音取
源平合戦に敗れ西国へ都落ちした平清経の宅には、妻が寂しく残されていた。そこへ清経の自殺を知らせる為、淡津三郎が来て遺髪を届ける。夫の自殺に驚く妻は、受け入れられず三郎に形見を突き返し泣き伏してしまう。その妻のうたた寝の枕元に清経の霊が…。
自分を置き去りにして自殺したことを怨み嘆く妻、源氏に追われる焦燥と無益な抗戦への懐疑から耐えきれず死を決断したと訴える夫の、二人のすれ違い。月光の下愛用の笛を吹き念仏を唱えて舟端から身を投げた清経は死後修羅道に堕ちていたが、念仏の功徳で成仏することができたといって消え失せる。
今回は特殊演出「恋之音取(こいのねとり)」による上演であり、笛方にとっての大曲となる。清経の霊の登場シーンに、笛のみの独奏となり、その音色に誘われるように清経が現れ、笛が止むと清経も止まる。色んな思いが複雑に錯綜しながら妻の前に現れる様子が、「笛」と「無音」で表現される、大変素晴らしい演出。
奈良で能を楽しむ会 特別公演
翁付キ 高砂 を観る
『翁付キ高砂』
『翁』は能にして能にあらずといわれ、「天下泰平」「国土安穏」を願う神事とされております。
能楽は江戸時代には式楽とされ、翁と脇能を同じシテ(主役)が勤めました。
近年では、この演能形式は非常に珍しく、特に奈良では久しく上演記録がありません。
能楽発祥の地である奈良で能楽の原点ともいえる演目を是非ともお楽しみください。
なら燈花会能 ~ 競い合う美と力 ~
令和4年度 奈良金春会演能会
能「二人静」(ふたりしずか)
吉野勝手明神の神職(ワキ)が、神に供える若菜を摘んでいた女(ツレ)に帰ってくるよう命じる。女が菜摘川のほとりで若菜を摘んでいると、一人の女(前シテ)が現れ、自分の供養をしてほしいと頼み、姿を消す。菜摘みの女が神職にこの出来事を話していると、先ほどの女の霊が菜摘みの女にのりうつる。女の霊は静御前であるとほのめかし、昔自分の着した舞の衣装が神社の宝蔵にあると言う。菜摘みの女がその衣を着て舞を始めると、静の霊(後シテ)も同じ衣装で女に寄り添うように舞う。
同じ姿の二人が舞う「序ノ舞」が見どころの一つ。吉野山における源義経の逃避行や、静が頼朝の前で「しづやしづ」の舞を舞ったことが語り舞われます。。
能「熊坂」(くまさか)
旅の僧(ワキ)が美濃国赤坂で一人の僧(前シテ)に呼びとめられ、武具ばかりが並ぶ持仏堂に案内される。やがて僧が消え去ると持仏堂も消え失せ、旅僧は野原にとり残される。赤坂の宿の者(アイ)から大盗賊熊坂長範のことを教わった旅僧が供養をしていると、熊坂の亡霊(後シテ)が現れる。熊坂の霊は、かつて陸奥へ下る途中の金売吉次伸隆の宿所を襲い、吉次の一行に加わっていた牛若(源義経)に討たれた有様を仕方話に語る。
二人の僧が対座する静かな前半の場面と、後半で熊坂が長刀をふるう激しい戦いの仕方話が対照的な曲です。
解説 中司 由起子
次回予告
7月10日(日) 連合謡曲仕舞会
10月16日(日) 能「敦盛」中田 能光 能「遊行柳」金春 康之
11月27日(日) 能「金札」髙橋 忍 能「紅葉狩」金春 飛翔
令和4年度 奈良金春会演能会
能「西王母」(せいおうぼ)
古代中国の周の穆王(ぼくおう)に仕える官人(アイ)が、王の治世をたたえ行幸を告げ、穆王(ワキ)が大臣(ワキツレ)を連れて豪華な宮殿に行幸する。そこへ女(前シテ)がやって来て、三千年に一度だけ花咲き、実を結ぶ仙境の桃の花を捧げる。女は西王母の分身であると明かして天に上る。王が管絃を奏して待つと、西王母(後シテ)と桃の実を持った侍女(ツレ)が現れる。西王母は王に桃の実を捧げ、舞を舞うと空へ消えて行く。
仙女西王母が御代を祝して捧げ物をする、めでたく華やかな作品です。寺院の法会の後におこなわれた延年風流の演目の影響があるとされます。
能「通小町」(かよいこまち)
八瀬の山里で夏を過ごす僧(ワキ)のもとに女(ツレ)がやって来る。女は木の実を捧げて木の実尽くしの歌を謡うと、小野小町の霊であるとほのめかし消え失せる。僧は市原野に小町の墓があることを思い出し、市原野で小町の供養をする。すると小町の霊(ツレ)が現れて成仏を願う。さらに生前、小町に恋をしていた深草の少将(シテ)の霊も現れる。少将は百夜通いの様を再現してみせ、小町への執心と苦悩を語り、僧の弔いにより小町と共に成仏する。
少将は恋心を伝えるために小町のもとへ百夜通おうとしますが、九十九夜で焦がれ死にしました。<通小町>は、金春権守が奈良多武峰で演じた作品を観阿弥が改作した能。さらに世阿弥の手も加わっているとされています。
解説 中司 由起子
次回予告
6月19日(日) 能「二人静」金春 穂高 能「熊坂」金春 憲和
7月10日(日) 連合謡曲仕舞会
10月16日(日) 能「敦盛」中田 能光 能「遊行柳」金春 康之
11月27日(日) 能「金札」髙橋 忍 能「紅葉狩」金春 飛翔
PDFファイルを利用するにはアドビ社が無償配布する「Adobe Reader」をインストールする必要があります。
Adobe Reader(無償配布)は以下バナーをクリックして入手してください。